レクチャー

良質な歯科技工物を製作するために、石膏模型に求められる3つの条件

正確な印象採得が達成されていれば、石膏注入が歯科技工物不適合の原因となることは少ないが、歯科技工物の仕上がりに影響を及ぼすような失敗は避けなければならない。
そのためにはいくつかの要件を満たすことが必要ではあるが、どれも少しの手間と工夫があれば達成できるものばかりなので、患者へ質の高い歯科技工物を提供するための第1歩として、チェアサイドに関わる皆さまにも少々協力をお願いしたい。
本記事では、技工作業に適した”良質な作業模型”とはいかなるものかを、石膏の注入方法を中心に考えてみよう。

1.気泡の無い石膏模型

石膏注入で”ミス”と聞けば、多くの場合は”気泡の混入”だと思われているが、実はそのほとんどは技工所サイドでフォローすることができる。
小さな気泡が石膏模型上に存在する程度であれば、周囲の形状を観察することで、どの程度その気泡を埋めればよいかの判断が可能なためだ。
保証分も含めて多めに修正したとしても、セメントスペースの範囲内と言える程度であり、適合精度にさほど大きな影響はない。

反対に、印象材の一部が剥がれてしまった場合などは、実際の口腔内には存在しない余分な形状が作業模型上に再現される。これをプラス方向の変形と仮称しよう。

プラス方向の変形の場合は、石膏模型の余計な部分を削り落とすことで本来の形状へ近付けるよう修正を行うが、多くの場合はその範囲が広く、実際に存在する硬組織までの距離も判断が難しいため、印象側に問題があるほうがより深刻だと言える。
*印象材の問題については今回の記事では詳細を割愛する。
IMG_0808積層一回印象法の場合、ヘビーボディーが被印象面から剥がれる方向に変形しているのがわかる。
これでは重要部位に影響がないとは言い切れないため、精密な印象を目指す場合は二回法を推奨したい。

1-1.石膏模型表面に現れる気泡

石膏を流す際に練和不足であったり、急速に流し込んだり、石膏と接触する印象体表面のヌレが悪い場合などに起きやすい。
練和不足に関しては、真空撹拌器を使用するなどの対処が必要である。
また、硬化待ちの時間に印象体を上に向けて(固まる前の石膏を台に置いて)放置した場合も、気泡が上方へ向かうため、石膏模型表面に気泡が出現したり、面荒れの原因になる。

1-2.石膏模型内部に存在する気泡

精密な一次注入の後、印象体内部に十分な量の石膏を流しきるまえに、二次注入を行った場合、石膏模型内部に気泡が発生する。
チェアサイドで発見されることは殆どないが、技工作業中に支台歯が砕けたり、模型そのものが割れる場合もあり、重大なトラブルの原因となる。

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2.均一な混水比で注入された石膏模型

臨床現場で見落とされがちになるのが、石膏練和時の混水比と、印象材内面に残った水滴ではないだろうか。

2-1.石膏練和時の混水比が作業模型に与える影響

歯科理工学では、石膏と水の混水比が高いほど(水の量が多いほど)操作可能時間が延長され、石膏模型の耐久性が弱まり、硬化膨張量は小さくなるが、気泡が出現しやすくなる。
反対に、石膏と水の混水比が低い場合は、操作可能時間が短縮され、石膏模型の耐久性が強まり、硬化膨張量は大さくなるが、気泡が出現しにくくなる。

通常時は標準混水比を用い、毎回同じ精度の石膏模型を得ることが出来るように心がけてほしい。
エムセラではデントロニクス社製の『キチリ』を使い、毎回同じ混水比になるよう調整している。

2-2.印象体表面に残された水分が作業模型に与える影響

印象体を消毒、水洗したあとは、印象材表面が乾燥しない程度に水分を残しつつ、水たまりのない状態で石膏を流すように注意してほしい。
水気が多いほど印象材表面のヌレ性が良くなるため、石膏も流しやすくなるが、支台歯や前歯部の切縁など、水がたまりやすい箇所は、石膏模型の表面のみ極端に混水比が高くなってしまう。
石膏模型預かり後の歯科技工所において、湿式トリミングや水洗などを行う際、局所的に混水比の高い部位があると、石膏が脆くなったり、表面が荒れて水に溶け出してしまうリスクがある。

ヌレ性を高めたい場合は、表面活性材を使用することも有効な手段のひとつである。
エムセラではデンタルアルファ社製の『いぶきクリーナー』を使用しているが、対象の材料によっては表面が荒れることもあるので、テストを繰り返しながら最適の表面活性材を見つけてほしい。
エムセラで表面活性材を使用する場合は、スプレーで吹き付けたあとに軽く水洗するようにしているが、水切りの具合に関しては、ある程度の経験と見極めが必要になるだろう。
シリコン印象材の場合は、活性剤を噴霧後、一度乾燥させればよい。

3.清潔な石膏模型

口腔内から撤去した印象材表面は、唾液や血液のほかにも、裏層材や分離材、薬品などの様々な阻害因子が付着している。
それらは模型表面を荒くし、石膏の混水比を狂わせるだけではなく、歯科技工士の感染症リスクも高めてしまう。

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また、印象体から取り外した石膏模型に、ちぎれた寒天印象材などが付着している場合は、印象材が乾燥する前に剥がさなければ、模型の表面荒れにつながる。

ラボサイドに石膏模型が渡る頃には、石膏模型に血液の跡や、寒天などが付着していない状態でなければならない。

3-1.石膏模型に取り込まれる感染因子

肝炎ウィルスや結核菌などは、乾燥した石膏模型上でも1週間以上生き延びることがわかっており、泥状の石膏を流すことでそれらの感染因子が模型内部に取り込まれてしまう。
ラボサイドでは作業模型の石膏粉末が飛散する行程もあるため、作業模型に関しては”印象体に対する消毒”が、唯一有効な感染症対策であると言える。
エムセラで預かったシリコン印象に石膏を注入する際には、十分な水洗を行ったのち、Oro Clean Chemie AG社製の『アセプトプリントスプレー』を吹きかけ除菌している。
『アセプトプリントスプレー』はアルギン酸系、シリコン系、ポリサルファイド系全ての印象材に使用でき、寸法を変化させることもないため、気軽に使用することが出来る。
他にも印象体の寸法安定剤が含まれた除菌液などもあるため、適した薬剤を試してほしい。

3-2.ハイドロコロイド印象材の乾燥,離液,膨潤

寒天やアルギン酸などのハイドロコロイド印象材は、乾燥,離液,膨潤と呼ばれる性質を持ち、それが寸法精度の変化や模型表面荒れの原因となる。

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それぞれの現象を理解することで、印象体に石膏を流すためのワークフローを計画することができる。

3-2-A.乾燥

時間が経つにつれてハイドロコロイド印象材は乾燥が進み、石膏の水分を奪うことに繋がる。
そうなると石膏模型表面が荒れてしまうため、印象材が乾燥する前に石膏模型を撤去しなければならない。
つまり模型を撤去するタイミングは、石膏の硬化時間に合わせることが正しいタイミングであり、模型表面に残った寒天などもその時に剥がしておかなければならない。
石膏を流したまま数時間も放置された模型では、荒れがひどく発生し、その後の行程に影響を及ぼす。

3-2-B.離液

ハイドロコロイド印象材表面から水分や塩分がにじみ出ることを離液と呼ぶ。
ハイドロコロイド印象材には平衡状態がなく、構造の凝集が続くため、収縮し続けることを意味する。
つまり印象体に石膏を注入するタイミングは、口腔内からの撤去後、早ければ早いほど精度が高まる。
直後に取りかかれない場合は、水中に漬け込むことなどせずに(膨潤の性質もあるため)湿度100%の湿箱に入れておけば、10分程度は延長することが可能と言われている。

3-2-C.膨潤(吸収)

ハイドロコロイド印象材の硬化後、水中へ浸漬すると、浸透圧の差により内部へ水を吸収し膨張する性質。
乾燥や離液にばかり注意が向かいがちではあるが、意外と見落とされているのが、この膨潤である。
すぐに石膏を流せない場合に、印象体の水中保存を試みている場面を目にすることも多いが、残念ながら良質な補綴物を得ることは難しいだろう。

まとめ

・気泡が発生する原因を知る
・石膏の二次注入を行うタイミングを知る
・標準混水比を用い毎回同じ精度の石膏模型を得る
・局所的に混水比の高い部位をつくらない
・清潔な石膏模型は歯科技工物の精度も高める
・乾燥,離液,膨潤の3つの性質を理解する
・ハイドロコロイド印象材に平衡状態はないためスピード勝負

今回のように、歯科技工士の視点を交えながら日常の行程を見直すことで、印象材に石膏を流すという単純な作業の中にも、新しい見方が生まれたのではないだろうか。
後に控える作業にどのような行程があるのかを想像するだけでも、それが良質な医療サービスへ繋がる可能性は高まるはずである。

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